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打診

いつだったか実家の壁に釘を打つというので、兄が壁のあちこちをコンコンと叩いて中の構造を調べていた。思わず#78「地下壕にて」を思い出した。ちなみに兄はもちろん天才外科医ではなくて、普通の設計士である。

とある社長に五千万円の報酬を請求しに来たBJ先生。証文が無いことを盾にまったく支払う気のない社長を苦々しく思いながらも、新ビルを見物していけと言われて他のお客たちと共に地下の避難用ホールに案内される。コンピュータで制御されるホールの性能を自慢げに説明する社長。試しに大地震のデータを入れてシャッターを全部下ろさせたところまでは良かったが、中からはコンピュータを操作できず、全員が中に閉じ込められることとなってしまう(アホだな~)。外部へ連絡する手段もなく、水も食料もなく(アニメではおまけに空気まで徐々に薄くなっていった)、皆が途方にくれていると、専務が「壁の裏にコードがとおっていて そのコードを切断すればどこかのシャッターがあきます!」と言う。懐から静かに3本のメスを取り出す蝶ネクタイBJ。だが、この広い壁のいったい何処を壊せばよいのか。BJが取った手段は「打診」。皆が半ば呆れてへたばっている中で、ひとり壁を打診してコードの場所を探すBJ。やっと音の違う部分を見つけてメスで掘り始めると、もし助かったら大金を出すと誰もが言う。コードはあった。切断してシャッターを開ける。我先に飛び出して喜ぶ人達は、しかし大金を出すという約束など簡単に反故にしてしまうのだった。「自分の命より紙切れの証文のほうを大事にするおかたぞろいのようだ」と皮肉を言って去っていくBJ。

危機に直面したときの人間の様々な生態が見られる作品。専務に責任を転嫁する社長(コンチック・ショオ伯爵)、キレて社長に反抗する専務(ハム・エッグ)、怒って文句を言う客(ロンメル)、水が欲しいと見当違いな駄々をこねる客(モクサン)等々。テーマとしては、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」と言うのか(「病治りて医者忘る」のほうがズバリか)、「借りる時の地蔵顔 済す時の閻魔顔」と言うのか、困ったときには泣き付くくせに楽になれば受けた恩を忘れてしまう都合のよさってどうなのよ、という点を読み取るべき作品なのだろうが、どんな場面でも慌てず騒がずクールに問題を解決していくBJのカッコよさのほうに、まず目が行ってしまう。その手段がお医者ならではの「打診」であるところがまた憎いではないか!

打診……叩いた音で中の様子を知る手段。一般人ならスイカを買うときくらいしか用いず、また用いてもあまり違いが判らないか、どんな音が良いのか判断できないかであることが多い。しかし一昔前までなら、風邪を引いて近くのお医者さんにかかると最初に必ずされた記憶がある。肌の上をジグザグに降りてくる先生の暖かい手のひらの感触を覚えている。一昔前と書いたのは、最近されたことも見たこともないからだ。ざっと問診が終わるとすぐに血液検査やレントゲン撮影に回される。医者の前で裸になることも滅多にない。見えない身体の内部を調べる技術が発達したから、もう打診なんて必要とされていないのかもしれない。でもお医者には、特に内科医には、熟練しておいてほしい技だと思う。画像診断設備が整った病院ばかりではないのだから。

打診には、体表を直接叩く「直接打診法」と、体表の上に手または打診板を置いてその上から叩く「間接打診法」があるらしい。また、打診音には「清音」「濁音」「鼓音」があるそうだ。BJ先生は左手の中指を叩く間接打診法で「コンコン」と「タンタン」という音の違いを聞き分けてコードを探し当てている。これは超人的なことなのだろうか? どうなんだろう? どこまでも諦めない意志の強さと集中力を持続させる能力は確かに凄いが、絵を見ると結構壁が薄いので、中が空洞であるかどうかは案外簡単に判るかもしれないと思う。最初に触れたが、兄も音によって内部に建材(というのかな。木です)がある部分を見つけている。

もうちょっと読み込んでみよう。この絵を見るとコードは横に張られている。そして先生は少しずつ横に移動しながらかなり長い時間壁を打診していたと思われる(他の客の位置等がかなり変わっている)。もしもコードの通っている部分だけが空洞であるならば、先生はもっと早い時点で横方向に走る空洞を見つけていてもおかしくない。ということは……。

壁は全面が薄壁一枚の空洞なのだろう。そして先生が見つけたピンポイントは、コードが捩れるか何かしてたまたま壁面に接触していた部分なのではないかな。だとしたら、それを聞き分けたBJはやっぱり凄い! そういえば専務は「壁の裏」と言っているのであって「壁の中」とは言っていなかった。BJは「この下に何かある」と言っていて「ここが空洞だ」とは言っていないのだった。コードが通っている空洞を探しているという私の思い込みで、BJ先生の能力を兄レベルまで落としてしまうところだった、危ない危ない(笑)。タナ落ちしたスイカの音を聞き分けるのとは、やっぱり雲泥の差がある。

最近の打診を行わない若い医者だったら、この危機から脱することはできなかっただろう。同じく身体内部の様子を知るための聴診器を持っていたとしても、この場合は何の役にも立たない。熟練と経験に裏打ちされた打診という技。BJ先生は外科医だが、内科医としても立派に通用するに違いない。

書いているうちに不安になってきたのだが……。避難用ホールがこんな薄壁でできていて大丈夫なんだろうか(重層構造であるにせよ)? 見た目は頑丈そうなのに。手抜き工事か(笑)?

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コメント

私も空洞を探しているのだと思っていました。

投稿: いんこ | 2008年9月23日 (火) 14時41分

いんこさん
ああよかった。私一人の思い違いでなくて。
ふつうそう思いますよねぇ!!

投稿: わかば | 2008年9月24日 (水) 00時05分

最近になって、
ブラックジャックにはまり始めた、夢と申しますshine
こちらのサイトでのBJは更に魅力的で 素晴らしいですsign03sign03 これからも頑張って 下さい。
応援しますnote

投稿: 夢 | 2008年9月27日 (土) 22時41分

夢さん
はじめまして。いらっしゃいませ。
>最近になって、
わあ素晴らしい!! 30年も前の漫画なのに、夢さんのような新たなファンを獲得し続けているなんて、やっぱり『BJ』はそれだけ力を持った名作なのだと再確認せずにはいられません。ご一緒にいつまでも『BJ』を楽しんで参りましょうね!
私はとにかくBJ先生大好き人間ですので、目が眩んで贔屓目に見てしまっているかもしれないのですが、夢さんに「魅力的」とおっしゃっていただけて嬉しいです。これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。m(_ _)m 応援?! ありがとうございます! 照れ照れ……。

投稿: わかば | 2008年9月28日 (日) 00時02分

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