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必敗の戦い

Mから、最後の5分間が録画されていない(石田衣良さんが「奇子」について語っている部分だったらしいので、許す。)『手塚治虫2009 現代への問いかけ<第3夜>いのちとヒーロー ブラック・ジャックからの問いかけ』のテープを受け取って、さっそく観てみた。

ゲストの海堂尊さん(作家・医師)は手塚眞さんと同い年。ということは私より2学年ほど下だと思うが、当時「少年チャンピオン」を立ち読みしたという話に思わず「同志!」と親近感を抱いた。誰もが読んでいたから(それこそ基礎教養として)、格別話題にも上らなかったという述懐にも頷くことしきり。読者は皆それぞれの思いを胸に秘めて、大っぴらに語ることなどほとんどなかったのだ。ましてや妄想など。今とは隔世の感があり、また今と当時とどちらが良かったのかつらつら思うところもあるが、まぁそれは別の話。海堂尊さん、とても感じの良い方だったので、今度『チーム・バチスタ……』読んでみよう。

「空からきた子ども」のアニメが観られたのは収穫だった。2000年の制作だというから、2003年の「少年チャンピオン」の応募者全員サービスだったやつとは違うのかしら? いずれにせよ初見だった。BJ先生の住居はやはり房総半島付近という設定になっていた。それにしても、ガガノフ少佐といい、追跡してきた6~7機のレポールといい、平気で日本近海上空を飛んでいるようで、日本の防衛監視体制に非常に不安を覚えたが(笑)、それもまぁさておき。原作よりガガノフ少佐の描写が多く、より感動的に仕上がっていた。良い出来だったとは思う。しかし原作の淡々とした味わいとどちらが良いかと言われると、それはやっぱり原作なのだなぁこれが。あまりに劇的で感動的だと、重すぎて繰り返して見ようという気が起こらない。情報量が多すぎるアニメのこれが弊害だと思う。こちらの想像の余地がない。

父としての思いと、軍人としての立場の葛藤。それを押し隠して冷静かつ毅然とした態度を崩さないガガノフ少佐と、その心中を察して何とかしてやりたいと思いながらも医学の限界にのたうちまわるBJ。この2人の醸し出す重圧感や無力感や悲愴な覚悟、そういったものがこのお話の肝だと思うのだ。アニメのガガノフ少佐はちょいと頭に血が上りすぎていたように感じたが、でもまぁ良い出来ではあったと思う。

また、ガガノフ少佐がレポールとともに自爆して果てた後、彼の思いと最期の記憶をBJは一人で受け止めて生きていくのだなぁと感じられたのは、このアニメのおかげだ。重いな、これは……。原作からはそこまでは感じ取ることができなかったから、これは素直にアニメに感謝したい。監督は瀬谷新二さん。原作に一番近い絵柄を描かれるということで、テレビアニメシリーズでも多くを手掛けておられた。また因みに、手塚治虫公式ページの「手塚マンガあの日あの時」で、今ちょうど「空からきた子ども」が取り上げられている。いやホント、あの素早さには驚いたよ!

そして嬉しいことに、番組ではドクター・キリコにも焦点が当てられていた。海堂さんは「キリコは死の象徴。BJはキリコには絶対に勝てないことを知っている」とか「医者というのはキリコの心を少しは持っていないとやっていけない」とか「医療現場は必敗の戦い(人間は必ず死ぬものなのだから)」と語っておられたのが印象深かったが、だからといって『BJ』という作品は夢も希望もない方向性では描かれていない、とまとめられていた。時間の不可逆性からいっても、BJがキリコに敵わないという点は、以前にTさんも考察しておられたし、二次創作の世界でジャキリよりキリジャが多いという現象にも現れているように思う。だから取りたてて新しい知見ではないと思うけれども、天下のNHKでそう解説されたとなると、今後はこれが公式見解になっていくんだろうなと思った。「ドクター・キリコが登場したことによって作品の格が一段も二段も上がった」と指摘しておられたのが嬉しかった。キリコはやっぱり怖い存在なのだ。「ふたりの黒い医者」の原作絵に合わせて大塚BJとキリコ(山路さんのような若本さんのような?)の吹き替えも聞くことができた。あのキリコの哄笑とBJの叫び(と、その前の「……ち…く…しょー」)は、なかなか聞き応えがあった。

あとは、OVAの「しずむ女」が紹介されていた。久しぶりに観たが、いや~濃いな、OVAは(笑)。シリアス路線なので、先生が体操なんか始めると笑うべきかどうか悩んだりするが、ヨーコ改め月子ちゃんの語りに涙ぐんだ。初めて観たときは号泣したが、やっぱり慣れてしまったのだろうな……。私にとって「しずむ女」は思い入れの深い作品なので取り上げてくれて嬉しかったが、これだけ観た人にはBJ先生がえらくイイ人に勘違いされそうな気もする(笑)。

なかなか充実した2時間だった。いやもう、テレビの画面にBJ先生が映ることがこんなに嬉しいものだとは、アニメが終わってから忘れていた。テレビアニメとOVAの中間くらいのテンションで、また新作を作ってもらえないものかなぁ。原作絵、アニメ、OVA、それぞれのBJに合わせて声を使い分けておられた大塚明夫さんにも拍手!

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