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謎のオースチマン

「あなたがもし 天国ばかり目をすえて 地上をけっしてみないなら あなたはきっと地獄行き」

「U-18は知っていた」冒頭の「オースチマン・オマリー」の警句である。長年、なんだかよく判らないけれども判ったふりをして読み飛ばし、私は知らないけれどもきっと有名な人の有名な言葉なのだろうと信じて疑わなかった言葉である。今回初めて調べてみて、手塚治虫がどうしてこんな言葉を知っているのかを不思議に思わずにはいられない。

まず、「オースチマン・オマリー」でネット検索してみて驚くのは、その典拠が明らかなものは全てが「U-18は知っていた」に拠っているということだ。つまりこのエピソードでの記述以外にネット上に「オースチマン・オマリー」なる人物は見当たらないのである。

中に1件だけ綿密に調べたサイト(白拍子泰彦氏のサイトである)があって、「現代風に読むなら、オースチマンはオースティンとなるだろう」とあり、更に「オースティン・オマリー(1858-1932)はアメリカの医者で、手塚が医学生時代に医学書などから彼の名といくつかの文章に触れたのだろうと私は推理している」と書かれている。ブラボー! 素晴らしい! そしてそこで紹介されていたリンクからやっと辿りついた原文がこれだ。

“If you keep your eyes so fixed on heaven that you never look at the earth, you will stumble into hell.” --- by Austin O'Malley

やれやれ。どこがどうなって Austin が「オースチマン」になったのやら。「オースチン」ならまだわかる。どこかの時点で余計な「マ」が入ってしまったのだろう。あるいはただの誤植かもしれないが。いずれにせよ、「オースチマン」なんて人物はいない。「U-18は知っていた」を読んでこの言葉を有り難く暗唱した者全員が大間違いな思い込みをしていることになる。これはアレだ。『007』の「ゴールドフィンガー」を見た者が「人間は皮膚呼吸ができなくなると死ぬ」と思い込んだのと同じくらいの大間違いではなかろうか。

Austin O'Malley(1858-1932)。1910年代に“Essays in Pastoral Medicine”“Ethics of Medical Homicide and Mutilation”“Keystones of thought”等の著作がある。
“Ethics of Medical Homicide and Mutilation”の表題紙に書かれている肩書きは“M.D.(Medicinae Doctor=医学博士)”“PH.D.(Philosophiae Doctor=哲学博士)”“LL.D.(Legum Doctor=法学博士)”である。“physician, humorist”としてあるサイトもある。 また1895~1902年にはノートルダム大学で英語の教授もしているようだ。なかなかの学者らしいし、彼の箴言は正しく「Austin O'Malley」で検索すれば結構出てくるので、手塚先生も彼の本を読んだのかもしれないという推測もできる。

ネットを漁ったところ、件の警句は“Keystones of thought”という本に載っているらしい(←これは結構苦労して調べた)。では日本国内にオースティン・オマリーの著作物はあるのか。ところが、国立国会図書館の「NDL-OPAC」で探しても、全国大学図書館の「NACSIS Webcat」で探しても、彼の原著ならびにその翻訳本が見つからないのである。考えられることは、もしも翻訳本が存在するとすれば、それは国立国会図書館の納本制度ができる昭和23年(1948)以前の発行であった、あるいはそれ以降に原著が入っているとしてもNACSISの遡及入力が追いついていないか、である。そしてもしも翻訳本がなく手塚先生が原著を見たのだとしたら、「あなたがもし 天国ばかり目をすえて 地上をけっしてみないなら あなたはきっと地獄行き」というフレーズは手塚先生の訳ということになる。

白拍子氏の推理では、オマリーが医者であったことから手塚は医学生時代にオマリーの文に触れたのだろう、となっていたが、これが正しいとすれば是非とも大阪帝国大学附属医学専門部の蔵書目録を調べてみたいものである。ちなみに大阪大学のOPACも検索してみたが、ヒットしなかった。あるとしても戦前の本だから、まだデータが入力されていないのだろう。

手塚が医学生時代にこのオマリーの文に触れたとする。あるいはノートに書き留めたりしたのかもしれない。『BJ』を描く際には自分の医学生時代のノートも参考にしたらしいから、そのときふとこの文が目に留まってこの作品が生まれた、と考えても確かに無理はない。

しかしここでひっかかるのは、この警句がはたして医学のノートに書き留めておくほどのものかということと(笑)、この“Keystones of thought”という本が医学書らしくないことである。件の警句も医学とは関係ない。はたしてこの本が大阪帝国大学附属医学専門部(もしくは大阪大学医学部)にあっただろうか。そこで、オマリーには“physician”のほかに“humorist”という肩書きもあることを考えてみる。数々の箴言を残しているようなので、おそらくいろいろな書物(洋書)に引用されることも多かったのではないか。とすれば、手塚が読んだSF小説などにこの文が引用されていたのではないかという推測も成り立つのではないか。あるいは洋画のセリフとか……。

オースチマンの「マ」がどこで入ってしまったのかということと、手塚先生がどこでこの言葉を知ったのかということ……どなたかご存知ありませんか(泣)。
(大急ぎで書いたのでグダグダな文章スミマセン。後で読み返して直すかもしれません。調べるのに時間を食った割りには成果が出なかったなぁ……)

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コメント

逆に、もし、当時の訳し方が『オースチマン』なのだとすれば、オースチマンで検索すると出てくる……とか?

そんなことはないか(*´ω`)

投稿: もりびと | 2009年7月28日 (火) 10時22分

もりびとさん
「オースチマン」でも検索してみたのですが、出ませんでしたヨ。

投稿: わかば | 2009年7月28日 (火) 23時51分

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