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神技

BJ先生の神技が描かれたお話2つについて。

一ヶ月ほど前だったか、テレビで両腕の移植手術のニュースを見た。2008年、自家移植ではなくて他人の腕をつける手術にドイツで成功したという。1年経って、まだ指先の動きは不完全だが、自分で食事ができる、自転車に乗れる、かゆいところがかける等、医師もびっくりするほどの回復ぶりだそうだ。他人の腕をつける手術は2000年にフランスで行われたのが最初だったが、それは片腕だったので、両腕全体の完全移植はこれが「世界で初めて」と報じられていた。

われらがBJ先生はというと、「ふたつの愛」(1974年)で同じ手術に既に成功している。このときは何故だか病院の前に街宣車がきて「いよいよ世紀の手術が始まります。別人の両腕を移植する手術です。このきわめて困難で 世界に前例のない大手術に 日本じゅうの期待が集まっています!」とアナウンスしている。闇の天才外科医BJの手術がこれだけ大っぴらに周知喧伝されたのは空前絶後なのではあるまいか。ここまでやったのなら手術成功後もマスコミが大騒ぎして取り上げてくれてもよさそうなものだが、残念ながらそれはなかった(世界初の偉業なのに)。そして神技を発揮しておきながら、さほど大したことをしたような顔もせず寿司を注文するBJ先生なのであった。

しかしBJ先生の神技といってまず最初に思い浮かぶのは「病院ジャック」である。テロリストに病院を占拠され、更には電源を切られて真っ暗闇になった中で、BJは完璧な手術を行うのだ。私はこのお話がことのほか好きなのだが、その理由は、先生の神技もさることながら、あくまで一人の医者として存在するBJをカッコいいと思うからである。他の医師たちはなんとかテロリストを懐柔しようとしたり形成を逆転しようとしたりするのだが、BJは一顧だにしない。どんな状況下でも目の前の患者を手術することだけを考えている。プロ意識なんてものではなくて、もう細胞1個1個のレベルでこの男は外科医なのだ医者なのだと思わせられる。

そして名言が飛び出す。「マッサージ師は目が見えなくてもツボは知っている。医者がマッサージ師に笑われたいか?」と手術を断行。そして患者を助けるものの、その停電の間に5人の重症患者が死んだことを知ってテロリストに一言。「たいしたやつだな……簡単に5人も死なせるなんて。こっちは……ひとり助けるだけで せいいっぱいなんだ……」。できることとできないこと。自分一人の力ではどうしようもないことがある。その諦観を前提に、一人の天才外科医が精一杯の力でたった一人の命を助けようとする。そのあり方生き方に、多くのことを学んだ一作だ。

ところで余談だが……。「病院ジャック」の「ジャック」という言葉。これには「乗っ取る」だの「占拠する」だのいう意味はない。一説によれば、むかし駅馬車強盗が御者に“Hi, Jack!”と呼びかけて馬車を止めさせたことに由来するらしい。“Jack”というのはありふれた名前として選ばれているだけだ(日本なら「ひろし」あたりか?)。乗っ取られたのが飛行機でも車でも列車でも船でも、英語ではすべて「ハイジャック」と言うらしい。だから「病院ジャック」というのは和製英語で、英語なら“Hospital hijack”が正しいだろう。文庫版の英語タイトルが“Hospital Jack”になっているのはきっとBJ先生の名前とかけてあるのだと思う。

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