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「台風一過」

『BJ』定期連載終了間際の「台風一過」(1978. 9.11)で、BJ邸は台風により吹き飛ばされる。この話のひとつ前の話が「指」を改作した「刻印」、次の話が「人生という名のSL」だから、手塚先生はもうこの辺りから『BJ』終了の体勢に入っておられたのだろうと思う。描き直したかった作品を描き直し、家もきれいサッパリ吹き飛ばし、思い出の人々が総出演する夢をBJに見させて、さあBJはどこへ行ったのだろう……という結末。当時は、もしかしたらBJは死んだのかもしれないという噂も確かにあった。翌年から不定期ではあるが描き続けられたので、ほっとしたのであるが。

「人生という名のSL」以降の13話が、それまでの時間軸と同じかどうかはわからない。いや、それまでだって、第24話「万引き犬」で地震によって倒壊したはずのBJ邸が翌週ちゃんと建っているのはおかしかったわけだから、台風で吹き飛ばされたはずのBJ邸が元どおり建っているのも、マンガならではの自由さであるとか過去のエピソードだからだと考えれば説明がつく。しかし同時に、あの古ぼけたBJ邸は今もなお吹き飛ばされたままだという可能性を否定する材料もない。アニメ版ではしっかり再建されていたが、爆破されてしまった(笑)。(しかしそれにしても、24話「万引き犬」と149話「やり残しの家」と228話「台風一過」の3話の出来事を破綻なく説明するのは至難の業である。笑)

さて、「台風一過」。先週には非常に強い台風18号が日本を縦断して各地に大きな被害をもたらしたが、千葉県の海岸沿いでは竜巻と見られる突風が吹いて5棟が全壊したそうだ。BJ邸ももしかしたらこのような台風に伴う竜巻でやられたのかもしれない。ちなみに1978年に来た台風を調べてみたが、首都圏を直撃したものはなかった。ただ7号(VIRGINIA)がかなり近づいており、日付からいっても手塚先生になんらかのインスピレーションを与えたかもしれないとは思う。

15歳の清純派歌手・マニー白毛(なんじゃこの名は)が子宮外妊娠して命が危ない。台風が近づいているので家に帰りたいBJ先生だが、大量出血があったので仕方なく緊急オペをすることに。一方、BJ邸のピノコは徐々に近づいてくる台風に不安が募るが、「おまえもおとなだろう。私に頼らずにしっかり家を守ってろ。わかったな」というBJからの電話を受け、台風襲来に備えて大忙し。

「家なんか何軒も建つが この子の命はひとつかぎりだぞ」と停電の中で懸命に手術するBJと、屋根を吹き飛ばされても「かまァないわのよ。おうちなんていくやでも建つんやから……」と毛布をひっかぶって蹲っているピノコ(このときピノコが何を抱えていたかは最後にわかる)。まったく別々の場所でそれぞれに奮闘する二人が、「家なんかよりも大切なものがある。それを守るんだ」という共通の思いを語っているのがなんとも上手い。ゴシップばかりを気にするマネージャーが限りなく卑小なものに見える。

そして台風一過、岬に帰ってきたBJが目にしたものは、跡形もなく吹き飛ばされたわが家と、毛布にくるまって眠るピノコだった。

「ごめんなちゃい ……れもね ピノコ一生けんめ 守ったわのよ」
「わかってるさ…………」
「先生……朝のお茶」

燦々と降り注ぐ朝の光の中でBJにお茶を差し出すピノコの姿に、私は言葉にならないほどの感動を覚える。疲れて帰ってもベッドも枕も吹き飛ばされてもはや眠る場所もないBJに、ピノコはせめてもの熱いお茶をふるまいたいのだ、いつものように。毛布の中に抱え込んでいたのは、BJの湯呑み茶碗とお茶をいっぱい入れたポットだ。「家を守れ」と言われたピノコが守ったのは、建物ではなくて、BJが憩い安らぐことのできる家庭だったのである。

ああ、ピノコ。あんたには誰も敵わないヨ……。

Photo

朝のお茶。それは毎日の習慣。

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