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appendix

月曜日は『BJ』語り。きょうは「勘当息子」について。

5本の指に入るくらい大好きなお話なのである。だから既に部分的には取り上げたこともあった(と思う)。「虫垂だの農家の四男坊なんてのは やたらに切っちまっていいもんじゃないだろう」。もうこの台詞に尽きる! カッコいいなぁBJ先生!

雪でストップしてしまった国鉄に乗っていたBJ。動く見込みがないので仕方なく列車を降りて民宿を探す羽目になる。雪道を5キロも歩いて辿り着いたそこにはおばあさんが一人。きょうは自分の還暦の祝いに3人の息子たちが帰ってくるので、泊めることはできないと言う。すごすごと引き返そうとするBJをおばあさんが止める。いいもてなしはできないけれど、それでもよければ……。今か今かと息子たちの帰りを待ちわびるおばあさん。そこに一郎二郎から電報が来て「帰れない」とのこと。続いて三郎からの電話でもやはり「帰れない」と。がっくりするおばあさんと酒盛りを始めるBJ。そこに勘当されていた四郎が、還暦のお祝いを携えて帰ってくる。口では突き放すようなことを言いながら、ひとり嬉し涙にくれるおばあさん。そのとき、おばあさんの腹部に激痛が……。

今は医者となった四郎の診断は、虫垂炎をちらしたために起こった腹膜炎。しかしBJの見立ては異なっていた。「あなたは……だれですか? 医者なんですか?」と問う四郎。もうここらへんから後の会話はBJの真骨頂が余すところなく表れていて、コタエラレナイ!

BJ「そんなもんだね。ただおまえさんよりもうちょっとぐれた人間だがね。たぶんこれは移動盲腸だ。虫垂炎の手術はムダだよ」
四郎「だまっててください。これは虫垂炎だっ」
BJ「いいか……! 文句をいわず私のやることをよく見てろ!」
四郎「なにっ!!」
BJ「やらせなきゃあ損だぜ。なにしろ私がタダで手術するのはめったにないことなんだ」
 --BJ執刀開始--
BJ「みろ。どこも化膿なんかしてないぞ。虫垂もマトモだ」
四郎「…………」
BJ「移動盲腸と虫垂炎は区別がむつかしいんだ。おまえさん あと百人もオペやりゃ一人前だよ」
 --腸間膜縫合(?)--
四郎「虫垂を切っちまった方が安全じゃないですか」
BJ「切るこたァないだろう」
四郎「なぜ?」
BJ「虫垂だの農家の四男坊なんてのは やたらに切っちまっていいもんじゃないだろう」

うはーー! やっぱりコタエラレナイ!! o(>_<)o ぷるぷる

『ブラック・ジャック・ザ・カルテ 2』(B・J症例検討会著)によれば、このときBJが行った手術は「盲腸皺壁形成術」もしくは「(盲腸)固定術」だそうだ。そしてこの本では続けて「しかし、四郎の言うように、この老母の場合ならば虫垂切除をしてもよかったのではないか?」と書かれているが、このお話の場合は断固それじゃダメなんである! 「農家の四男坊あたり」を「(騒ぎを起こすなら切ってしまっても差しつかえない=なくても問題ない)盲腸」に喩えてあるのだから、切ってしまっては台無しなのである!

家には必要の無い人間だとグレた四郎の思い、兄弟の中で一番おかあさん思いだった四郎の優しさを、BJは暖かく掬い上げている。お前さんは必要の無い人間なんかじゃないんだ、と言われているわけだから、嬉しかっただろうと思うよ、四郎は。しかしBJも同時に嬉しかったのだろうと思う。おばあさんに対してまるで本当の息子になったかのように、もはや叶うことのない母親孝行をさせてもらっているように見える。はじめは「おばあさん」と呼んでいたのが、酒盛りの最中にはちゃっかり「おっかさん」と呼んで労わっていることからも、それが窺えるのではないかと思う。

それにしても、13年も帰郷せず、還暦祝いをするから帰れという止むに止まれぬ思い(そういう理由だったらいくらなんでも帰ってくるだろうという思いもあっただろう)の老母からの誘いも断るとは、どんなに仕事が忙しいにせよ(彼らの言を信じればの話だが……)、いったいどんな息子たちかと思う。この話は2008年12月に狂言となって上演されたが、そのときの彼らの言い訳は「解散総選挙で大事な時にて今は帰ることができず」「世界金融恐慌にて銀行が忙しい」「裁判員に指名された」というものだったらしい。なかなかナイスである(笑)。

ところで、この話は『ブラック・ジャック ~命をめぐる4つの奇跡~』の中の1編として2004年にアニメ放映された。このとき場所の設定が仙台の近辺となっていて、あぁなるほどと思った。「人生という名のSL」でヒゲオヤジがBJとは仙台で一度会ったと言っているのだが、『BJ』にそういう話は描かれていない。「勘当息子」の舞台が仙台だとすると、おばあさんが語りかけている今は亡き夫の写真がヒゲオヤジであることで辻褄が合うのである。もっとも、アニメではヒゲオヤジは喫茶Tomのマスターという役が振られているので、写真は別人のものになっていたが。

ああ、またアニメも見たくなってきたナ。P嬢のはしゃぎっぷりには興醒めだが、クライマックスシーンには原作の台詞がほぼそのまま使われていて、特にあの「虫垂だの農家の四男坊なんてのは……」の部分はそこだけBGMもストップしてBJ先生の声だけが聞こえる。わ~やられた、と思った。良い演出だったと思う。

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