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夢か現か

年が明けても月曜日は『BJ』語り。出崎OVA版の感想など書いてみよう。きょうは『KARTE VI 雪の夜ばなし、恋姫』

事の発端は、2年前に発送された大金の入った小包がBJ邸に届いたことだった。種田三郎という男からで、明日をも知れない妻の命を救ってくれという手紙と地図が同封されていた。BJはすぐさま雪深い村を訪ねるのだが……。

私にとってOVA版全10話の中で最も印象が深く、何度観ても泣いてしまうのがこの話だ(種田が……! 種田がーー!! ←骨の髄までオヤジ好き・笑)。原作の「雪の夜ばなし」とはまったく異なる完全オリジナルストーリーで、BJがわずか15分ほどのうたた寝の間に見た夢の話である。しかしそれだけでは終わらず、最後に種明かし的かつ感動的にもう一つ大きな山場があるという重層構造になっている。全体としてはジェントル・ゴースト・ストーリーで、そういう点では原作と同じと言ってよいかもしれない(原作の幽霊はBJを連れていこうとするので、あまりジェントルではないかもしれないが)。

時代劇が描きたかったという出崎・杉野両監督が、絢爛で切ない戦国時代の恋を描き上げている。種田三郎左衛門と姫の純愛、姫を我が物にせむとする六条寺と彼を慕う薫光尼、またその薫光尼を密かに恋するあぶ丸。登場人物がみな叶わぬ恋に苦しみ、最後は死んでいく。そんな中でBJはただ姫の心臓手術をするだけの異分子的存在に感じられた。なにしろ夢なので、突然時代劇の世界に入り込んだことへのとまどいも違和感もなく、彼はいつもの通り冷静でクールで現代的な外科医に徹している。

この時代劇の部分がBJが見ている夢だということは、観ている者にはわかる。BJが眠りから覚め、そのまま終わるかと思いきや、そこからが本当の雪の夜ばなしとなる。登場してくる人々が見事に時代劇部分とオーバーラップして、実に切なく美しい話に昇華しており、ここでまた滂沱の涙を誘われるのだ。そして「この手術に関して言えば、成功率は100%だ」という力強いBJの言葉でエンドマークなのであるが、もしかしたらこの部分も夢なのかもしれないと思われないでもない。

夢から覚めた夢、というのは、「ハッスル・ピノコ」の中でピノコが何回もやっていたが(笑)、誰でも1回や2回は見たことがあるのではなかろうか。BJ邸に小包が届いたところからして、もう夢なのではないか。2年も遅配するなんて普通では考えられない……。

原作の「雪の夜ばなし」では、BJは幽霊を手術する。猛吹雪の夜、BJは一人でウイスキー(?)を飲んでいる。そこに、見えない患者を連れてきた若い兄妹。旅客機が墜落し、魂だけになった母を連れてきたと言う。大枚3千万円もポンと支払う兄妹を、BJは最初は億万長者の精神障害者かと疑う。話を聞いて、この兄妹もやはりそのときの事故で亡くなった死者だと悟るBJ。母親を入院させて兄妹は去っていった。そうこうするうちに、墜落事故の怪我人(これは本物の人間)が運び込まれてくる。空いたベッドがあると見るや、そこに怪我人を寝かせようとする人々を、「ここには患者がねてるっ!!」と阻止するBJ(ベッドの上にキラキラ)。ここにBJの真骨頂が垣間見える。

初出時には、ここで話は終わっていた。あとの8ページは後から描き加えられたものだが、そこでは例の兄妹が戻ってきて(声だけだが)母親とともにBJを連れていこうとする。BJは「私はいけないっ」「3千万円か!! あんなもの返す」と抵抗し、3千万円を吹雪の中にぶちまけ、なんとか兄妹を追い払うのだ。おそらくあの世へ向かうと思われる真っ白な旅客機が飛び立ち、BJは安堵の息をする。「……雪の夜ばなしとして……お笑いぐさか!」。

OVA版を観た後で考えてみると、原作のストーリーもまた全編にわたってBJの夢だったのかもしれないとも思われてくる。酒を飲んでソファでうたた寝をしている間に見た夢。そもそもBJ邸からほど近い下町に旅客機が墜ちて大火事になっているのに、兄妹に言われるまでBJが気付いていなかったというのもおかしな話なのだ(音くらい聞こえそうなものだ)。

……と、ここまで書いて、もしかして原作のストーリーを夢物語だとわかっていなかったのは私だけなのかもしれないと思い始めた。どうなんですか、あれ。現実の怪談話なんですか。それともBJ先生の見た夢なんですか……?

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