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告知

私が自分の病名を知らされたのは昨年の3月31日のことだった。翌日だったらエイプリル・フールだったのに、と思ったのでよく覚えている。奇遇なことにその同じ3月に夫の友人の奥さんがやはり乳癌の告知を受けておられたことを数ヶ月前に知った。彼女の場合は、もう手のほどこしようがないと言われたそうだ。そして現在は精神病院に入っておられると数日前に聞いて驚いた。

「医者の態度が酷かった」とご主人は言われた。こちらを見もしないでポンとカルテを放り出し、もうサジを投げましたと言わんばかりだったのだそうだ。癌治療においては最先端を行く病院だったのだが、その後実際に何も治療が行われなかったので、ほかの病院に代わったと聞いていたのだが……。

奥さんは死を口にし、「自分が悪い、自分が悪い」とご自分を責め続けておられるのだそうだ。お気の毒でならない。「自分が悪い」という気持ちは私にも理解できる。家族に心配をかけてしまった、夫を悲しませてしまった……と自責の念に駆られることは多いのだ。

それでもどうやらこうやら私が以前と変わらぬ精神状態でいられるのは、医者の告知態度にもよるものではなかったかと、この奥さんの場合と比べてみてそう思う。以前にも書いたかもしれないが、「風邪です」と告げるのと同じくらいサラリと「(検査の結果)悪性のものが出ました」と言われた。まず「はぁ、そうですか」とトボケタ返事をしたと思う。その後3秒間くらいどう受け答えをしようかと考えて「切ってください」と言ったのだが、その間ドクターはじっと私の様子を見ておられたような気がする。あ、こいつ能天気なやつだ、と思われたのかどうかは知らないが、その後はどんな手術をするのかということに話が移っていった。

このとき、もしももっと病状が進んでいて、あの奥さんのようにあからさまに医者から見放されたりしていたら、自分もいまごろ精神病院に入っていなかったという自信はない。実際に治る治らないの問題ではないのだ。治るための手立てを講じてくれるお医者さんがいてくれるというのが、患者には何よりの救いなのである。

前置きが長くなった。月曜日は『BJ』語り。きょうは告知について。

『BJ』が描かれた1970年代には、いまと違ってまだ癌の告知は一般的ではなかったように記憶している。そんな中にあってBJ先生は「告知派」だった。

・「めぐり会い」より、めぐみさんの述懐
「患者にガンだと教えるのはざんこくなことなんだ。それは死刑の宣告のようなものだ。しかし妹(私)のためにブラック・ジャック先生はズバッといってのけた。妹(私)はかえってそれで先生を信じた……」

・「侵略者(インベーダー)」より、BJの言葉
「死ぬんなら死ぬ ダメならダメとハッキリ教えたほうがこの子のタメですよ」(←死ぬんなら死ぬ ダメならダメ、って……。死ぬんなら死ぬ 治るんなら治る、じゃないんですか先生)
「私はね。ガンのようななおりにくい病気の患者に なおりますなどといってごまかすのはきらいでねっ。死ぬ人間にははっきり死ぬといっとく主義だ。そのほうが残りの人生を有効に使える」
「(しかしそれじゃ悲観して自殺でも……と言われて)自殺なんかするような患者は なおったって気がよわくて生きがいなんか持たんやつさ!」

BJのほかには、「かりそめの愛を」でミチルの主治医だった女医(BQか?)が告知しているが、これは誤魔化しきれなくなったためで、本来告げる予定ではなかったと思われる。「執念」の手塚医師もやはり告知していないが、患者自身が医者だったので察してしまっている。やはりこの時代は患者のためを思って告知しないケースのほうが多かったのだろう。

逆に、告知しなかったために患者が疑心暗鬼に陥ってしまったのが先の「侵略者(インベーダー)」。患者(サトル)本人にバレないようにしようとして周囲の人間の態度がよそよそしくなったのを、サトルは宇宙からの侵略者がすり替わっているからだと思い込む。頓珍漢な思い違いなのだが、夢見がちな年頃の少年の不安な気持ちはとてもよくわかる。

この作品、BJが告知をする前と後の絵を見比べてみていただきたい。告知前のベッドや机やドアなどはことごとく歪んでいる。平行、垂直であるべきところがそうなっていない。まるで熱に浮かされたときの夢のように身の置き所のない不安感に満ちており、それはそのままサトルの心象風景と言ってよい。告知後はそれらがすべてビシッと正常に直っていて、読者はそこにサトルの心理の変化を見るのだ。

「きみはあと一週間のあいだ 生きる努力をたっぷりやるんだな!! できるか? 手術うけるかね?」と問うBJに「うけますっ!!」と力強く答えるサトル。余命いくばくもないと宣告されても、そこに懸命に治そうと努力してくれる医者と家族の愛情があれば、患者は最期の最期まで頑張れるのだということを、この作品は示してくれているように思う。ちなみに、サトルの病気である腎芽腫(ウィルムス腫瘍)は、今では約9割が助かるようになったそうだ。

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