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「私みたいな医者にはなるな」

「誤診」に出てくるBJの同級生の病院長(以下「誤診くん」と呼ぶ)なんか、まだかわいいもんだと思えるような医者のニュースを目にした。「切除手術の必要のない肝血管腫だったと容易に判別できたのにがんと誤診。(中略)肝臓手術の経験や知識がなく、専門医や麻酔医もいない不十分な態勢だったのに手術を行い、肝静脈を損傷させて男性を失血死させた」という。更には、肝臓がんの捏造や、全額公費負担で“取りはぐれ”のない生活保護受給患者に不必要な手術を行ったり実施したように偽装したりして診療報酬をだまし取っていたという。挙句に「病院は人が死ぬところ」とうそぶいていたというのだから呆れる。自分で殺しておきながら……。

少なくとも誤診くんは自分の技量が未熟だということを知っており、BJに助けを求めているだけまだマシだ。

この「誤診」という話、名誉欲と権力欲が強くどちらかと言えばヤブの部類に入る誤診くんと、その下でなんとか正しい医療を行おうとする若い医師・伊東と、天才的な技術を持ちながらモグリで医者をやっているBJの、医者としてのスタンスの対比が面白い作品である。当然BJが鮮やかにオペを成功させ、俗物の権化たる誤診くんをギャフンと言わせて終わるかと思いきや、逆にBJのコンプレックスが浮き彫りになるという、なんとも苦い結末となっている。

とあるサイトで、BJは誤診くんから報酬を受け取ったのだろうかという問題が提起されていた。なるほどねぇ。考えもしなかったが、受け取ったか突き返したかによって最後のBJの感情は若干異なったものになるかもしれない。突き返していたとすれば、まだ救いがあるように思う。私は当然受け取っただろうと考えているが、そのほうが「あんな奴からの金だって受け取る男さ、オレは」という自分に対する嫌悪感も含まれて、苦悩はより深いはずだ。いや別にBJ先生を苛めたいわけではないが、先生かなり思いつめた顔をしていらっしゃるから……。

当然の報酬であり決して汚い金ではないが、自分のプライドが傷つくのと引き換えに手にした金というのは、……どんな気がするものかね。

誤診くんはというと、きっとサバサバしたものだろう。翌日にはBJのことも辞めさせた伊東先生のこともすっかり忘れていそうな気がする。自分が誤診した患者に対しても「いやあ、危ないところでしたが、私が緊急手術したのでもう大丈夫ですよ」くらいのことは言いそうだ。

「私みたいな医者にはなるな」……単に無免許でモグリだという意味ではあるまい。肩書きや地位といった世間一般の価値観で見られ、軽蔑されることまでは我慢できても、己のプライドに苛まれることの辛さをBJは言っているのだろう。「だれかに軽蔑されるような医者にはな!!」……この「だれか」とは、BJその人自身なのではあるまいか。

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