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医者の決断と覚悟

月曜日は『BJ』語り。先日読んだ本からの流れで、きょうは「その子を殺すな!」について。

子宮外妊娠した母親を救うためには胎児を犠牲にしなくてはならない。手術を請け負ったBJの前に、心霊手術を施す超能力者ハリ・アドラが現れて……。

胎児が無頭児であることを事前にハリ・アドラに言わなかったことが(言う義理もないが…)なんとなくフェアではないような気がして、名作の部類に入るエピソードではないと思うけれども、まぁ一度読んだら忘れられない一作であることは間違いない。

このお話が発表された当時のことだっただろうか、TVで心霊手術のウソを暴いた番組を観たことがある。血糊状の液体を用意し、徐々に指が体内に入ってくように見せかける。何かを体内から取り出したように見えるが、それは最初から術者が掌に隠し持っていたもの。ニワトリの内臓だった、とナレーション。その患者が本当に病人だったのか、そして手術の後は病状はどうなったのか、などの詳しい解説などは望むべくもないキワモノ番組だったように記憶している。

それに比べると、ハリ・アドラは本物である。パンの中に仕込まれた紙片を見破ったり医療器具をグニャグニャ曲げたり、何よりも、ちゃんと妊婦の腹から胎児を取り出しているのだから。子宮外妊娠というだけならば、切らずに処置できる分だけBJよりも優れているのは間違いない。この患者の妊婦さんは、手術後、傷痕が残っていないので不思議に思うのではないかな(あるいは、BJが後の処置をするために開腹したかもしれないが)。

ハリ・アドラが「ホントノ医者ハ神ノオボシメシドオリ 人ノ命ヲスクウモノデス」と心霊手術によって赤ん坊を取り出す。ところがその赤ん坊が無頭児だったために、彼はショックを受ける。BJは言う。「X線像で できそこないということはわかってたんだ。だから殺したほうが母親のためによかったのだ!! それとも そんな赤ん坊を生かすのが 神のおぼしめしだってのか? そのカエルみたいな 脳ミソのない子が どんな一生を送るというんだっ。殺せ――っ。そのほうが慈悲なんだ!!」。しかしハリ・アドラにはそれは出来ず、結局BJが赤ん坊の息の根を止める。麻酔から醒めて「―おなかの赤ちゃんは…?」と尋ねる母親に淡々と「死んでたよ。あきらめるんですな」と告げるBJ。

BJとハリ・アドラの勝負という観点で見れば、手術ではハリ・アドラの勝ち。しかし何が患者にとって最良の道なのかを選択する覚悟の有無ということでは、BJの勝ちということになるのだろう。おそらくこの母親はわが子が無頭児であったことを一生知らずに生きる。それが、BJの考えるこの母親の幸せだったに違いない。

「医者はな ときには患者のためなら 悪魔にもなることがあるんだぜ!」とBJは言う。しかしヒューと吹く風の中を病院を後にするBJの後ろ姿は、やるせなさ、哀しさ、赤ん坊に対する憐れみの感情に必死に耐えているようにも見える。

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「ブラック・ジャック」カテゴリの記事

コメント

この話を読むと、いつも「最後に残る者」を思い出してしまいます。
同じようなことをしているのに・・・と。
今日のつぶやきはわかば様のエントリを拝見して思ったことなので、ご報告させていただきます。

投稿: グリコーゲン | 2010年4月27日 (火) 11時12分

グリコさん
コメントありがとうございます。

>同じようなことをしているのに・・・
これは、「その子を殺すな!」のBJと、「最後に残る者」のドクター・キリコの行為のことですよね。
はい、確かに。シリーズではだんだんとそのダークな部分をキリコが担当していくことになってBJとの違いが明確になっていきますが、このお話の時点ではまだキリコがBJから分化していなかったというのが、一番説得力のある説明になるかもしれません。
またもう一つ違いがあるとすれば、「最後に残る者」の超未熟児は「生きようとしていた」という点でしょう。たしか兄弟の中で一番元気が良かったという描写がされていたと思います。無頭児にはその意思すらも無い。身体のほかのパーツなら代替できても、脳ばかりはいかなBJでもどうしようもないということなのではないでしょうか。
だから、「最後に残る者」の超未熟児はBJの腕ならぎりぎり助けられる。「その子を殺すな!」の無頭児は無理、ということで私は理解しておりますが、キリコとの関係、すなわち「最後に残る者」でキリコの邪魔をしたBJの心理というのはまた別の要素があるかとも思います。一言で言えば、BJはキリコを「医者」だと認めており、医者は依頼を受けたからといってそういうことをすべきではないと思っているのだと私は考えています。ならばキリコ以外の医者、例えばニッシェ医師が人知れずあの子を始末しようとしていてもBJは阻止するかといえば、そうはしないかもしれません。……これ以上は私の想像の及ぶところではありません。グリコさんにおまかせいたします(笑)。

投稿: わかば | 2010年4月28日 (水) 00時51分

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