« エロチックな時代 | トップページ | 胃カメラ飲んだ »

武士道とは死ぬことと見つけたり

月曜日は『BJ』語り。
さーて何について書こうかと、目を瞑って1冊抜き出し適当にページを開く。「約束」だった。もう1回やってみる。今度は「死者との対話」。ありゃりゃ、似たようなお話にぶち当たったゾ。これでもう一度やって「二度死んだ少年」なんぞ引いた日には自分が運命論者になってしまいそうだったので、2回でやめておく(笑)。きょうはこれらのお話について。

「約束」……異国の地。難民キャンプに身を潜めるアラブ人の英雄・ルペペという男の手術をするBJ。しかし設備が整っていないために大動脈にくいこんだ弾丸を取ることができない。姑息的手術を施してから一年、パリ警察に捕まったルペペから再び連絡があり手術の続きをしてくれという。依頼に応じるBJだが、警察の話ではルペペは1年以内に確実に死刑になるという。「どうします? 手術をとりやめますか?」「いや……立派な手術をやってやるぜ!」……そしてルペペは刑場の露と消えた。

「死者との対話」……母校にやってきたBJ。そこで出会った医学生・間武田は解剖実習をやっていて「医者とはむなしい仕事ではないか」との疑問を持つ。BJは学生の解剖実習用に献体された、ある一人の遺体に向き合う。生前、彼は死刑囚だった。死刑になることを知ってなお、彼は病気を治そうとBJの手術を受けた。病気が治り、獄内で本を読み、生まれてからはじめて満ち足りた生活をし、そしてやがて死刑に処された。BJは彼の遺体を調べ、病気がすっかり治っていたことを知る。BJは間武田に言う。「(医者になって)満足なことだってあるさ……」

良い話である。と、昔はそれしか思わなかった。しかしこの年齢になって改めて読むと、ひしひしと身近に実感を伴って心に響いてくる話だ。生きられる時間があとわずかしかなくても、健康に生きたいと願い、生きる喜びを感じられれば、いまこの瞬間からでも新しく生まれ変われることを教えてくれる。生きることを、生きていることを大切にしろという、手塚治虫のストレートなメッセージだ。

BJの手術を受けた後、きっとこの二人の死刑囚は濃密な生を生きたに違いない。はたしてそれはどんなものだったのだろう。羨ましくさえあるのだが……。しかし考えてみれば、シャバにいるわれわれだって実のところ獄中の彼らとそんなに変わりはしないのだ。いつ死ぬかわからない。もしかするとそれは明日かもしれないのだ。

『葉隠』に「武士道とは死ぬことと見つけたり」という有名な一文があるが、これは「いつ死んでも悔いが残らないように、いつでも今がそのときと思って生きろ」即ち「今を精一杯生きろ」という意味である。自分がいつ死ぬかわからないのならば、いまの一瞬さえ愛おしい。

この二人の死刑囚はその境地に目覚め、生きたのだろうと思う。

|

« エロチックな時代 | トップページ | 胃カメラ飲んだ »

「ブラック・ジャック」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/141713/34197736

この記事へのトラックバック一覧です: 武士道とは死ぬことと見つけたり:

« エロチックな時代 | トップページ | 胃カメラ飲んだ »