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教育ママ

「教育ママ」という言葉が盛んに使われていた時代があった。調べてみると、高度成長期の頃に使われ始めたというが、昭和40年代前半にはなかったような…という説もあり、はっきりとはわからない。

ちなみに、Wikipedia にはこうある。
「教育ママ(きょういくママ)とは、わが子の将来を期待して学業・塾や習い事を熱心に受けさせる母親を指す。
また、その行き過ぎた躾や教育方針、被保護者の意向を置き去りにした家庭教育、それに付随する言動を揶揄する意味でも使用される。
【概要】
高度経済成長期に始まった学歴至上主義的な社会的風潮を背景として生まれた言葉である。 (以下略)」

『BJ』が連載されていた当時には明らかにその風潮はあって、作中にも「教育ママ」という言葉は使われずともその実態が描かれているものはある。

その代表格が#58「快楽の座」。三郎の母親は彼に勉強を無理強いし、せめてもの趣味としてトカゲを可愛がることさえ許そうとしない。そのせいで三郎が鬱状態になりまったく笑わなくなると、今度は安直に「最良の」医療を受けさせて治そうとする。脳にスチモシーバーを植え込まれた三郎が浮かべる不気味な笑みを見て「笑ったわ」と喜ぶあたり、まったく子どものことをわかっていない、わかろうともしていない教育ママそのものである。三郎の行動が狂気を帯び、母親にも危害を与えようとしたとき、BJが手術をして機械を取り外し、三郎はまた笑わない少年に逆戻り。そこでBJが提示した3千万円の処方箋は以下の文面。

「処方箋

 1.三郎君に今後絶対に勉強を押し付けない。
 2.三郎君を一日中子ども部屋の中へ閉じ込めない。
 3.三郎君に好きな趣味をさせる。
 4.三郎君の将来について無理強いしない。

    以上治療法・・・」 (注:原文はもっとひらがなが多い)

また、#135「夜明けのできごと」では、勉強勉強でノイローゼになったたかおが工事現場の穴に転落して頭に大怪我を負う。たまたま居合わせたBJが1千万円で手術を請け負うが、後日たかおの両親は手術代の支払いを渋り、原因は学校の宿題が多すぎるせいなのだから学校が支払うべきだと主張。学校は学校で、元はと言えば成績の悪いたかおを一流校へ入れろと両親がうるさいせいだと、お互いが責任をなすりつけあう。そんな中、BJはたかおの父が1千万円で不正入学をさせようとしている現場を見てしまう。たかおはたかおで、治ればまた宿題宿題の毎日なのだから治りたくないと言う。言葉をなくすBJ。そこへ友だちが見舞いに来てたかおを励ますという明るいエンディングになっているが、学歴偏重社会で子ども達がどんなに苦労しているかを赤裸々に描いた作品だ。子どもの命を救ったBJには払えない1千万円を、不正入学のためならポンと投げ出す両親のバカさ加減は、もう滑稽というより哀れにさえ見える。

#168「三者三様」には印象深い言葉がある。日雇い労働者の加藤清正が、高校入試に失敗した少年に言う言葉だ。
「あの歩いてる連中を見な。あん中の何人が一流校を出たと思う。出ちまえァ一流だろうが三流だろうが見わけつかねえよ。ダメなやつはダメだしよ。(中略)意地を持ちな。男としてよ」
息子を一流校へ入れて医者にすることしか頭にない父親とはまったく違う人種の人間が発したこの言葉は、少年にとっては大きな啓示になったはずだ。また、この後には(三流大学出の)BJ先生が渾身の手術をして、少年にこれまた大きな衝撃を与える。少年は最後には晴れ晴れとした表情をしているが、子ども達にとって広い視野を持つことがいかに大事かを示しているように思う。この少年、今後は親の無理強いではなく自分の意思で医者を志すようになるのではないかな。この作品はとても好きだ。

他にもあったかもしれないが、ちょっと思い出せないので、ここまで。……ああ、「発作」があったか。あれは子どもの主体性を伸ばすという点で、ピノコの育て方を学ぶBJ先生のお話と言っても良いかもしれないな。

いまの時代は、教育ママよりさらに始末におえない「モンスターペアレント」なるものが跋扈するようになったが、このモンスターペアレントも元々は教育ママに教育された子ども達だったのかもしれない。いかにも視野が狭い。いつの時代も、苦労するのは子ども達……だねぇ。

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