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「壁」

今月配本分の「手塚治虫文庫全集」を購入。『BJ』は、#169「モルモット」~#209「落下物」が収められている。このうち、未収録なのは#171「壁」のみ。これまで新書版にも文庫版にも全集にも収められなかった#209「落下物」が読めるのは嬉しい。また#176「信号」と#187「キモダメシ」は、全集に未収録だったが今回は収録されている。

Photo「壁」は、2005年に出たヤングチャンピオン増刊号『BLACK JACK SPECIAL』に綴じ込み付録として収載されていた。このエピソードがなかなか収録されないのは、実際にある難病名が書かれているためだという見方もあるようだが、本当のところはどうなのだろう。難治であることが収録されない理由であるならば、この他にももっとたくさんのエピソードが削られそうな気がするのだが。

確かに、患者の水上ケンは最後には亡くなってしまうので、悲劇であることは間違いない。しかし、悲劇ではあるけれども、決して悲惨な話ではないと思うのだ。目の前に立ちはだかる高校受験という「壁」を、ケンは病に苦しみながらも越えていく。憧れの高校に入学して、教室に置かれたベッドの中から授業を受けるケン。級友たちが気付いたとき、ケンは満足そうな笑顔を浮かべて静かに息を引き取るのだ。これが、しかしやはり、同じ病気に苦しむ人々にとっては希望のない終わり方に見えるのかもしれない。難しいところだ。

内科領域の病気であるため、いかにBJの天才をもってしてもこの病気を治すことはできない。作中、夢うつつの状態でケン少年はBJと会う。医者が治してくれないならいっそ早く死にたいと願うケンにBJが言う。「医者なんて なくとも人間生きられる」「生きようと思え。最後まで死のうなんて思うなよ」。そして「わたしも昔死ぬところだったがね…。最後のドタン場で助かったんだぜ」と、傷痕だらけの裸身を見せてケンを励ますのだ。

最後まで諦めない気持ちの大切さ、壁だらけの人生を懸命に生きた先にこそある安寧な死、そういうところに希望を見出してほしいというのが作者の願いだったのではないかと思われるエピソードである。そして最後のBJの言葉、「だれだって死んで満足なヤツはいるもんか!」というのは、受け取り方によっては随分冷たい言い方にも感じられるのだが、もっと生きたいと思っても生きられなかったケンを憐れみ、更には救えなかった自分と医学をも無念に思い、難治の病気の存在を嘆いて言い放った言葉ではないかと考える。

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