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「人間鳥」

『BJ』随一のトンデモ話、#5「人間鳥」を取り上げてみようと思う。

「人力飛行コンクール」のシーンから始まるこの一話、人間のほんとの夢は自力で空を飛ぶことだというト書きとともに、珍妙な方法で空を飛ぼうとする人々の努力と失敗が描かれる。そんな中、人々がふと気付くと、羽の生えた人間が空を飛んでいた。彼女の名前は「成田以香留」。生まれつき全然歩けなかったのを、BJが人工筋肉を埋め込んで飛べるように整形したのだった。

彼女の存在を知ると、人々は金儲けを企んだり、挙句は銃で撃ち落そうとしたりする。危ういところを救い出したBJに彼女が言う。「人間にもどりたくないの。もとのからだにもどってもどうせ世間はあたしを健康な人間に見てくれないわ。人間ってつめたいのよ。そしてとっても不自由だわ。いっそ鳥にしてください」。そして手術の後、すっかり鳥に変身した彼女は山に向かって飛んでいくのだった。「先生ありがとう。あたし……今度こそ すっかり自由よ」。

第4話までと比べるとかなり荒唐無稽でSFチック(?)な作品である。シリーズ全体を眺めても、たぶんこれ以上の異色作はない。確かに、いくらなんでもそれはないだろう……と思う。しかし失敗作、駄作かと問われれば、必ずしもそうでもないように思われる。『BJ』シリーズの中に置けば異彩を放っているが、手塚治虫の作風あるいは思想には非常に忠実な作品ではないかと思うのだ。

まずは、メタモルフォーゼだ。この話ではイカルが人間から鳥に変容するが、シリーズ中には馬が人間になる話もある。男と女の間を行ったり来たりするサファイヤや、大人になったり子どもになったりするメルモ、バンパイヤ族のトッペイやチッペイ、写楽にマグマ大使にW3……メタモルフォーゼを扱った手塚作品は枚挙に暇がない。

また、メタモルフォーゼにはそれを行う者は「異形の者」であるという側面もあるだろう。この話では腕の代わりに翼を持つイカルと、全身ツギハギだらけのBJ先生自身もまた異形の者の範疇だ。そして、その異形の者を排除しようとしたり好奇や差別の対象として見て、金儲けの道具にしようとする人間達の欲深さと浅ましさが描かれている。

ところで、ケイト・ウィルヘルムというSF作家の作品に『翼のジェニー』という短編がある。ジェニーは背中に翼のある少女だが、恋人だと信じていた男は彼女をサーカスに売ろうとする。彼女を助けようとした医者は……(ネタバレは避ける・笑)という話なのだが、なんとなくイカルとBJを彷彿とさせるところがある。いや、結末は全然違うけれども……。

もしかしたら手塚治虫はこの話を知っていたのかもしれないが、まあどちらにしても、一般の人間たちはそういう異形の者を利用しようとする悪役として描かれるのである。「人間ってつめたいのよ。そしてとっても不自由だわ」というイカルの言葉が持つ意味は大きい。鳥になったイカルはこの先どうなるのか、はたして幸せになれるのか、そこまでは描かれていないけれども、彼女にそう決断させた人間社会のいびつさ加減こそが、このお話の最大のテーマなのかもしれない。

BJ先生は、そういう彼女をなんとか幸せにしようとする魔法使いのような、はたまたマッドサイエンティストのような役割だ。後にオオカミ少女を整形して美少女にしてやった例もあった。自分も他人に忌み嫌われる容貌で、しかも子どもの頃には車椅子の生活だったということもあり、同病相憐れむの心境だったかもしれない。

また、このお話、BJ先生の過去に初めてちょっとだけ触れてある記念すべきお話でもある。何故だかわからないが子どもの頃には車椅子に乗っていたことや、イカルが先生のお母さんそっくりだったことなどが判明する。ずっと後に先生のお母さんが描かれるけれども……イカルに似ているとはとうてい思えない。のは、どうしたことだ(笑)?

また因みに、読売テレビ主催の「鳥人間コンテスト」が始まったのは1977年。このエピソードのほうが4年早い。

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