« 手塚プロがコミケに初参加 | トップページ | 酔っ払いのケンカ »

「おばあちゃん」

先日、YouTubeでこんな動画を見つけた。『ダウンタウンDX』の中の「ナキメンタリー3分間劇場」で「おばあちゃん」が放送されたときのものである。BJに高橋英樹、おばあちゃんに小林幸子、その息子に関根勤という配役だが、小林幸子が上手い! 初めて観たときは思わず泣いた(話のスジは知ってるのにね)。

感涙を絞ったところで終わるかと思いきや、ゲストの中に一人だけ「ちっとも感動しなかった」という女性タレントがいて、唖然とさせられた。トークは盛り上がったけれども(笑)。彼女は、「BJが3千万円もらう」ということについて引っ掛かったらしく、ダウンタウンの「あれはきっと(3千万円は)もらわないんだ。BJは『払います』という言葉が聞きたかっただけなんだ」という説明に納得して、前言を撤回して「感動」の札を挙げていた。

私は誰もが感動するお話だと信じて疑わなかったのに、そうではなかったことに驚いたのだが、きっと彼女だって息子を助けようとしたおばあちゃんの愛の深さは判っていただろうと思う。そういう感動的な話なのに最後にBJが3千万円ふっかけたことで台無しになってしまったと、彼女は感じたのではないかと思う。彼女はそっちに気を取られてしまったのだと好意的に解釈しておこう。

しかしこの彼女の反応(とダウンタウンの答)は、私にいろいろなことを考えさせてくれる切っ掛けになった。きょうはそのあたりのことについて。

#89「おばあちゃん」はシリーズを代表する名作という評判が高い。『BLACK JACK ザ・コンプリート・ダイジェスト』の解説を引用してみよう。

--難病の我が子を救うために、全財産をなげうち、医者が死んだ後も、残りの報酬を爪に火を灯す思いで払い続けた母。今度は母の命を救うためにBJへの手術代を「一生かけても払う」決心をする息子。親子の情愛も感動的だが、患者に高額な報酬を要求するのは、患者に命の重さを実感させ、本気で治療に参加させるためだ、というBJの根元的なテーマが如実に表れ、シリーズ中でもトップクラスの秀作。(以下略)--

クライマックスは、ラストで息子が必死の形相で言うセリフ「一生かかっても、どんなことをしても払います! きっと払いますとも!」と、「それを聞きたかった」というBJのセリフだ。この場面にはきっと多くの人が感動することだろう。

しかし私が一番好きなセリフは他にある。甚大夫人が「主人もなくなったことですし、奥さま、これでお支払いのほうはけっこうですから……」と言ったときのおばあちゃんのセリフ、「な なんてことをおっしゃるの!! 私がこれまでしてきた努力を ここでむだになさるのですか。私 絶対に全部お払いしますから!」である。

これはすごいセリフだと思う。金額の多寡を重視していた先の女性タレントには、このおばあちゃんの気持ちは決してわかるまい。息子の病気は治った。手術してくれた先生も亡くなった。それならもう払わなくてもいいじゃん。奥さんもそう言ってくれてるし。ラッキー♪ と、彼女なら思うことだろう。

それではダメなのだ。手術代を払い続けることは自己犠牲という意味しかないというわけでは決してない。それは、おばあちゃんの気概であり、息子を愛している証明であり、祈りや信仰でさえあり、そしてそれは彼女が生きている意味に他ならないのだ。それが証拠に、全ての支払いを終えた途端に、おばあちゃんは脳溢血で倒れる。ここにBJという名医がいなければ彼女の一生はそこで終わっていたに違いない。そしてそこでたとえ死んでも、彼女にはきっと悔いはなかっただろうと思う。

さあ今度は息子がおばあちゃんを救う番だ。甚大先生の代わりにはBJ先生がいる。90%生命の保証はない。だがもし助かったら3千万円だ。息子は払うと約束する。ダウンタウンは、BJは3千万円をもらわないだろうと言っていたが、私はそれは違うと思う。きっとビタ一文負けないだろうと思う(笑)。そして息子はずっと払い続ける。たとえBJ先生が死んでしまっても、ピノコがもうお支払いは結構ですと言っても、息子は払い続けるだろうと思う。それが、彼の気概であり、おばあちゃんを愛している証明であり、祈りや信仰でさえあり、彼が生きている意味であるに違いないから。

単に患者を治すお話である以上に、『BJ』にはこんなふうに様々な人生や生き方が描かれているのが嬉しいのだ。苦労も多いだろうが、こんな充実した生き方はなんとも羨ましい。

|

« 手塚プロがコミケに初参加 | トップページ | 酔っ払いのケンカ »

「ブラック・ジャック」カテゴリの記事

コメント

とりあえず…YouTube探してきます。(続)

投稿: くるみ | 2010年12月 8日 (水) 09時44分

…見てきました。そして泣きました。coldsweats01

何の前知識もなく見たわけですが…まず小林幸子のズバ抜けた声優ぶりに拍手を送りたいですねぇ。彼女(←小嶺麗奈)のトンチンカン発言には高橋・小林・関根御三方もガックリでしょう。感性が乏しく感受性の低い「イカニモ現代っコ風」をきどるあたりが鼻にツキました…ってそこまで言わなくていいですね。反省反省。

ただ命の重さ・大切さを知らしめるだけに止まらず「母として守るべき命を守る」という当たり前のことに対する「心の糧」というか「生き甲斐」というか「ハリアイ」というか。

ああ…わたしが言葉にすると安っぽくなってしまいますね。とほほ。

実際に金銭を払い続けることで得られる「何か」について考えさせられる話だと思います。その「何か」をうまく言語表現できませんが心にヒシヒシと感じました。

投稿: くるみ | 2010年12月 8日 (水) 10時26分

くるみさん
おお、ご覧になりましたか。佳かったでしょう?

なるほど、「イカニモ現代っコ風」をきどるとは言い得て妙。感動することを好まず、ちょっと斜に構えた考え方をするのが現代っ子だとすれば、私のようなおばちゃんは「そんなんで何か楽しいか?」と疑問に思わざるを得ません。それとも本当に感受性のカケラもないのか……。とすれば、なんだか怖いですね。

そうそう、「心の糧」ですね。上手く表現されましたね。私も昨日さんざん考えましたが、こんなに良い表現を思いつきませんでした。さすがです~♪
このお話は、最後のBJのセリフだけがクローズアップされがちなのですが、幸せな生き方、充実した人生とはどういうものかを万人に普遍的に考えさせる力を持った作品だと思います。機会がありましたら是非読んでみてくださいネ。

投稿: わかば | 2010年12月 8日 (水) 22時41分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/141713/37984444

この記事へのトラックバック一覧です: 「おばあちゃん」:

« 手塚プロがコミケに初参加 | トップページ | 酔っ払いのケンカ »