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勧進帳

最近なかなかゆっくりネットをする余裕がなく、書きたいことも書けずにいるが、忘れないうちに「少年チャンピオン」No.26~29に集中連載された『ブラック・ジャック創作秘話』(宮崎克原作 吉本浩二画)について触れておこうと思う。

No.26は「アニメ地獄」のサブタイトルが付けられていて、手塚プロの清水義裕氏の体験談が描かれている。これについては拙ブログ6月1日にちょいと書いたので、きょうはNo.27以降について。

No.27は「夜明け前」というサブタイトルで、元手塚プロアシスタント三船毅志氏の体験談。虫プロの経営悪化に見舞われながらも、一漫画家として良い作品を描きたいと思っている手塚治虫の姿が描かれる。また、三船氏の実家の寺が火事になって急いで帰郷しなくてはならなくなったとき、手塚治虫の一筆入った名刺一枚で飛行機の席が取れたエピソードには、思わずニンマリした。

No.28~29は「原稿を上げずに手塚先生はアメリカへ飛んだ(前・後)」。渡米前に上げるはずだった『ブラック・ジャック』の原稿がまったく出来ていないという危機的状況が描かれている。これはおもしろかった(笑)。

【以下、ネタバレしていますので、未読の方はご注意ください。】

「そこで先生が立てた作戦は……こちら(手塚プロ)で先行して背景を描き、帰国後、先生のペン入れした人物を切り抜いて貼りあわせるということでした!!」ネットもファックスもない時代に、どうやって原稿を仕上げるのか。しかもどんな作品になるのかは手塚先生にしかわかっていない。

新聞記者の使う隠語に「勧進帳」というのがある。記者が、事件や事故の現場から、メモなどを見ながら電話で記事を送ることを言う。記者は頭の中で完全原稿を組み立てながら話すわけだ。「勧進帳」の名は、弁慶が安宅の関で白紙の巻物をあたかも勧進帳であるかのように読み上げた、あの歌舞伎の名場面から取られている。最近では赤塚不二夫の葬儀で弔辞を読み上げたタモリが「勧進帳」だったことが話題になったりしたが、文章ではなくマンガでその「勧進帳」をしようというのだ、手塚治虫は!

まずは1㎜方眼紙を準備してアメリカの手塚先生からの電話を待ち受けるスタッフ。「左上5㎝のところから右上2㎝のところに線を引いてください」。なんと電話でコマ割りから指示し始める手塚先生。全24ページのコマ割りだけでその日は終了。翌日からは背景である。「2ページ目4コマ目ですが…『ブラック・ジャック』の3話前6ページ3コマ目の校門をこのコマの中央やや下に開いた状態で入れてください」……。こういう指示を延々と電話でやったというのだ。なんとも気の遠くなりそうな話だが、驚愕の事実はここからだ。

そんな細かい指定をしている手塚治虫の手元には何も資料がなかったというのである! つまり、彼の頭の中には過去に自分が描いた作品(『BJ』だけではない。『ブッダ』や『三つ目がとおる』などの名も挙がっている)のコマ割りから背景まで、全てが記憶されていたということだ。また、本棚にある資料についても、どの辺にあるどの本のどのあたりにどんな写真があったかまで記憶していたらしい。

帰りの飛行機の中でもインク瓶片手に描き続け、帰国するや否や空港からすぐに編集者に拉致されホテルに缶詰め。アシスタント総動員で描き上げたエピソードは#235「話し合い」だったそうだ。BJ先生の同級生が学校の教師をやっている話だが、その同級生の苗字は「無理」(笑)。およそ日本人の苗字としてはありそうもない苗字だが、裏にこういう事情があったのかと思うと、手塚治虫の執念と努力に頭が下がる思いがする。「1本でも10本でも同じ!! いつでも僕は締め切りギリギリなんです!!」は、けだし名言。

Photoこの『ブラック・ジャック創作秘話』の単行本は7月8日に発売されるそうだ。また、9月8日発売のNo.41からは岩明均脚本、中山昌亮画の『ブラック・ジャック 青き未来』が連載されるという。楽しみが増えた(笑)。

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