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ひとは自分が観たいものしか観ない

マンガ『美味しんぼ』で、福島を訪れた主人公が鼻血を出した描写が問題になっている。また同マンガに登場している実在の人物であるところの前双葉町長・井戸川氏は「(鼻血は)被ばくしたからです」と明言しているらしい。

私は実際にこのマンガを読んでおらず、テレビのワイドショーから得た情報しか持っていないけれども、番組で本当に鼻血を出す人が多いのかを調べたところ「そんな話は聞いたことがない」という人ばかりだったらしく、そういう実情を見れば福島県が風評被害を恐れて出版社に抗議文を送ったというのもうなずけるところである。しかし作者の雁屋哲氏は、2年をかけて取材をしてきた真実であると言う。いったいどちらが本当なのか。

ところで話は飛ぶが、『たかじんのそこまで言って委員会』という番組がある。すっかり安倍首相の提灯持ち番組となった観があり、とても冷静に議論を戦わせる討論番組とは言えなくなってしまったために私は1年以上前に観るのをやめた番組なのだが、沖縄にオスプレイが配備されるときだったか、番組出演者のZ氏が沖縄まで取材に行ったことがあった。その結果報告された事柄は「沖縄の人はだれも反対していない。基地そのものに反対している人にも一人も出会わなかった」というものであった。折から新聞にはオスプレイ拒否10万人結集と報道された頃のことだったと記憶している。

なんとも矛盾した話だが、おそらくZ氏は嘘を吐いたわけではないだろうと思う。Z氏は「たまたま」オスプレイにも基地にも反対していない沖縄県人に「しか」会わなかったというだけだ。

一人の人間が公正公平であることはなかなかに難しい。ことに政治的イデオロギーなどは持論がそうそう変わるものでもないから、ひとつの考えに凝り固まって反対意見には耳を傾けず、逆に自分の意見と似た意見や記事ばかりを積極的に取り入れようとする。結局のところ、ひとは自分が観たいものしか観ないのだ。

『美味しんぼ』で山岡が鼻血を出し、井戸川氏がそれは被ばくのせいだと言っているのも、作者の雁屋氏が福島の現状をそのように観たい、あるいは観るのが適当だと思っているのが反映されたというだけのことだ。

表現者が作品に自分の見解を描く姿勢自体は間違っていない。風評被害を恐れる行政が抗議することも間違っていない。間違えてはならぬのはただ読者のほうである。この作品で描かれていることを鵜呑みにするのか、福島の人たちがかわいそうだからこんなことは信じないという態度をとるのか等々、一人一人の読者の良識と判断力が問われる問題なのだと思う。

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コメント

ちょうどメルマガにこんな文章を載せました。長文失礼します。<(_ _)>

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筆者はその全容を把握しているわけではありませんが、当事者である福島県や双葉町等の市町村から批判の声が上がることは理解できますし、当然の反応だと思っています。実際に被害が発生する恐れもありますから、強い口調で反論せざるを得ません。しかし、政府関係者が風評被害を理由に作者と出版社を批判するのは、明らかに筋違いではありませんか? 

特に政府は、本来そうした汚染地域内で生活する人々の不安や心配をくみ取り、そのケアや対策を行わなければならないはずです。食の安心を追求する漫画がこのようなことを題材にする背景には、政府による当然の救済措置や除染作業、健康被害についての調査や監視が行われていなかったり、不十分であったりすることへの不安があるように思えます。

「あの程度の被曝量で鼻血が出るはずがない」と識者や科学者は言います。科学的事実や既成の被爆データ上は確かにその通りでしょう。正しい情報を与えることが地元住民の不安を和らげることにつながり、ウソやデマを流布することは風評被害を拡大することになります。それは間違いの無いことですが、そのように主張する方々は、実際に汚染された地域に住み、日々不安の中に暮らし続けている住民達の「心」にまで眼を向けているのでしょうか? 

政府の言い分は信用できない、マスコミは面白がってあおるだけ。自分たちの将来を描けずにいる不安を、和らげたり払拭してくれる存在はどこにも居ない。その不安定な精神が、科学的根拠のない「被爆の影響」に現れているのではありませんか? 日々纏わり続ける不安が、ただの鼻血を放射能と結びつけてしまっているのではありませんか? 

政府の対応は遅々として進まず、そのくせ原発の再稼働には妙に熱心で、地元住民の安全対策などそっちのけで再稼働へ向けた既成事実を積み上げようとするばかり。そうした政府に対する批判と不信感があの漫画に結びついているのだとすれば、それに対して風評被害を持ち出して批判する政府関係者の鉄面皮には呆れるばかりですね。(-_-;)

多分、こうした指摘が原発再稼働への逆風となることを政府関係者は怖れているのでしょう。だからフクシマのことを心配しているようなそぶりで、風評被害を助長するなどと批判し、封殺しようとしているようにしか見えません。

風評被害を形作っているのは、無策無能無責任で無自覚な政府自身です。そうした中でフクシマの現実を取り上げた漫画を叩き潰すということは、表に出しにくい不安を抱えた多くの人々の口を塞ぐことと同じです。極端な言い方をすれば、フクシマの人々を人質とした言論封殺なんですよ。(-_-メ)

同時に、風評被害を広めている原因のひとつは我々自身の無知でもあります。放射能汚染の恐れがある食べ物を子供たちに与えたくない、という親御さんの気持ちは無視できるものではありません。ただ、50代以上の我々が、20年とか30年かかって蓄積されていく被爆の影響を、必要以上に怖れるのは過剰反応ではないかと考えます。

放射能は怖いです。だからこそ、その中身をよく知った上で、正しく怖れるようにしたいですね。……てか、放射能よりも国民不在の政府の方がずっと怖いんですけど。(>_<)

投稿: モトキ | 2014年5月15日 (木) 23時26分

モトキさん
素晴らしい文章をありがとうございます^^ まったく、それぞれの立場の人たちがそれぞれの見解を口角泡を飛ばして力説しますが、置き去りにされがちなのは福島の人たちの思いですね……。

いまの政府自民党の変節っぷりは笑止千万ですよ。福島で原発事故が起こった当初、ときの民主党政権に向かって「県民たちの多くが放射能の影響で鼻血を出している。この健康被害を何と心得るか」と詰め寄ったのは当の自民党議員だったはず。それが今では「そんなことを言うのは風評被害だ」と言っているわけですから、その節操の無さには呆れるばかりです。

鼻血についての真相は医学にも放射能にも知識のない私には判断がつきかねます。でも私にとってはそれはたいした問題ではありません。いま現在も福島に住んでいる人はいっぱいいるわけですし、しかも私も50代ですから少々の放射能くらい今さら何とも思いません(笑)。機会があれば東北へ行ってみたいとも思っています。

実際に何ができるわけでもありませんが、福島の皆さんの気持ちにはいつも寄り添っていたいものだと思います^^

投稿: わかば | 2014年5月17日 (土) 00時32分

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