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簡単に事の善し悪しを語るな

6月の『100分 de 名著』はアルベール・カミュの『ペスト』を取り上げていた。講師は中条省平氏で、第4回にはゲストとして内田樹氏も登場。内田氏の読者としては見逃せない回であった(だってテレビで拝見したことないんだもん)。

うん。内田氏は想像したとおりのお人だった(笑)。言葉の使い方がやっぱり秀逸で、熱を込めて語られる内容はカミュをよく知らない私も思わず納得してしまう説得力があった。

さて『ペスト』であるが、あらすじをNHKのホームページから引用してみる。
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舞台は、突如ペストの猛威にさらされた北アフリカの港湾都市オラン市。猖獗を極めるペストの蔓延で、次々と罪なき人々が命を失っていく。その一方でオラン市は感染拡大阻止のため外界から完全に遮断。医師リウーは、友人のタルーらとともにこの極限状況に立ち向かっていくが、あらゆる試みは挫折しペストの災禍は拡大の一途をたどる。後手に回り続ける行政の対応、厳しい状況から目をそらし現実逃避を続ける人々、増え続ける死者……。圧倒的な絶望状況の中、それでも人間の尊厳をかけて連帯し、それぞれの決意をもって闘い続ける人々。いったい彼らを支えたものとは何だったのか?
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ペストとは私たちの人生にたびたび訪れる「不条理」の隠喩である。内田氏はこの場合は特に第二次世界大戦時のナチスドイツのフランス占領のことであると説明された。望んだわけでもない状態に置かれたとき、人は何をよりどころとしてどう向き合うのか。カミュは様々な人々を登場させてそれを描いている。

結局のところ、「反抗」と「連帯」というのがカミュの描いたことがらの主眼だが、『ペスト』という作品は決して正義感だとかヒロイズムを賛美するものではない。神なき世界において、淡々と誠実に事に当たる人間の姿が何より美しい。

私は原作を読んでいないのだが、番組に取り上げられた登場人物の中ではタルーに共感を覚えた。タルーは聖者になりたいと思っている人間だ。そして彼は死刑についてこう語っている。「こうした死(死刑)は、誰も殺されることのない世界を作るために必要なのだと聞かされていた。そうした考えはある意味では真実だ。しかし、結局のところ、僕はその種の真実を信じ続けることができない人間なのかもしれない。確かなことは僕がためらっていたということだ」。

ペストは人間に不条理な死をもたらす。死刑も人間に死をもたらすことでは同じである。たとえそれが多くの人の安全にとって望ましいことであっても、だ。タルーは被害者の立場に立つ人間ではあるが、加害者を断罪しようとはしない人間だ。それは「赦し」云々の話ではなくて、彼が人を殺すことに「ためらい」を覚える人間であるからだ。

自分はどこまでを受け入れられてどこからが受け入れられなくなるのか、そのボーダーラインの決定に「ためらう」ことの大切さ、そしてその基準となるのが言葉では言い表せない身体感覚であることを内田氏が説いておられたのがおもしろかった。

物事の理非や善悪はそう簡単には決められない……。

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